Thursday 11 May 2017

「VRML標準化とソニーの関わりーMoving WorldからLiving Worldへー」



電子ネットワーク協議会4 月度月例セミナー概要
VRML標準化とソニーの関わりーMoving WorldからLiving Worldへー」
> 講師:ソニー株式会社
アーキテクチャ研究所ソフトウェアラボラトリー 課長 勝重
1. VRMLとは
 VRMLというのは、バーチャルリアリティモデリングランゲージのことです。現在使われているウェブは、HTMLつまりハイパーテキストマークアップランゲージという言語で書かれていますが、VRMLはこれを三次元にしたもの。いわゆるインターネット上に三次元の記述を可能にしたい、さらにはインターネットの中に仮想的な三次元空間を創りたい、という私たちの開発目標の中の一つのアイテムです。現在、ソニー、SGIWorld Maker による共同提案がベースとなったVRML2.0がインターネット標準となり、本年中にはISOの国際標準となります。既にソニーではマルチユーザーという機能を使ってよりレベルの高い仮想空間を作り上げる努力を行っており、、次の標準化のための技術的なコアとなるものと考えています。
  ソニーではかなり以前から、バーチャルソサエティつまり仮想社会を実現したいという大きな目標を持っています。この開発プロジェクトがソニーの中のCSL、コンピュータサイエンスラボラトリーという研究所で始動したのは、まだインターネットが話題にもなっていない1993年のことでした。その1年後にいわゆるインターネットの大爆発が起きて、ワールドワイドウェブというような概念が出てきました。ソニーがこのインターネットというインフラをとらえるのと時を同じくしてHTMLがウェブとして使われ始め、一部の革新的な人たちによって、それを三次元化したらどうだろうという議論が盛り上がってきました。その当時SGI社が製品化していたインベンターというツールのファイルフォーマットがVRMLの原点になっています。当初は非常にローカルなものだったこのファイルフォーマットにウェブの概念を入れて、インターネット上でも使いやすい状態に拡張することでVRMLができてきたわけです。ソニーもこのVRMLをベースにした開発研究の結果、さらに強化を進めたプロトタイプシステムの開発に成功し、現在コミュニティプレイスという名前で製品が販売されています。

2. VRMLの発展形態

VRMLの第一段階となったVRML1.0は、三次元ワールドとか三次元オブジェクトのデータ記述ができると同時に、インターネットで接続されているものはすべてつなげることのできるURLのリンク機能をもっていましたが、その記述はあくまでも静的なもので、動きがありませんでした。動きを与え、環境的ないろいろな情報を与えるビヘービア機能、そして多くの人が共有できる仮想的な社会をつくるための仕組みであるマルチユーザー機能という大きな2つのものが足りなかったのです。そこでソニーは、VRML1.0上に独自のエクステンションを施したソニーエクステンションを95年の10月までに開発したのですが、さらに世界的にも標準化していくために、VRML1.0の起案者だったシリコングラフィックス社、ワールドメーカー社の3社でムービングワールズという提案をいたしました。これは動きの記述、いわゆるビヘービアを加えたVRML2.0の標準化提案で、昨年の夏正式にVRML2.0となりました。VRML2.0 では、動き、ビヘービアがVRML1.0の機能に加わったと同時に、三次元の空間の中でのサウンドデータの定義、動画の再生機能、いわゆるマルチメディア機能を加えるといった拡張が行なわれました。いくつもの提案との競合の結果、現在VRML2.0が唯一の標準となっています。ソニーではさらに、昨年の10月からアメリカのベンチャー企業2社とともにマルチユーザー機能の標準化を提案していますが、現在約40社の支援を得ていまして、これからのVRML3.0標準化における1つのコアになるのではないかと期待しております。
  では、このVRML3.0標準化のための鍵となるマルチユーザー機能にはどんな特徴があるかということですが、まずインターネット上に誰もが共通理解をもてる共有的な活動空間をつくるというのが1つの大きなポイントです。同じ情報をインターネット上、それぞれアメリカ、ロンドン、北京、日本と、全くばらばらなところにいても、インターネットでつながってさえいれば同じようにシェアできる、そういう仕組みをつくりたいということです。
 次に、その情報の伝達をするメカニズムが必要です。そのためにサーバーというテクノロジーがありまして、だれかが何らかの動作を行なった時に、その情報を受け取って、それを関連する人たちに配ることができます。これも1つ大きなポイントになります。つまり、1人の動きを全体が共通に認識できるように配信する、いわゆる共有ビヘービアというメカニズムです。
  それから多数の人たちが集まってきますと、当然コミュニケーションがしたいし、それができる仕組みを供給したいわけです。それらの処理を効率良く実施することもサーバーの課題です。ソニーではビューローという名前のサーバーをつくって動かしています。その時にインターネットの中をいろいろな情報を流す必要がありますし、仮想空間の中を動き回るアバターという名前の自分の化身がどの位置にいるかという情報を効率良く送ってあげる必要がありますので、そのために設計したVSCPという名前のプロトコルを用いております。
  ただここで注意しなければいけないのは、インターネットというもの自身は電話回線とかそういうものでつながっているわけで、決して情報量をそんなにたくさん流せるものではありません。その転送レートは28.8KBPSだとか、ISDNでも64Kだといった量に過ぎないわけです。ですからむやみに情報を送っていると、どうしても効率が低下してしまうので、よけいな情報をサーバはインターネットに送らないようにするコントロールメカニズムをもつことが重要になってきます。ソニーはいろいろな形でこの課題に対応しておりますが、サーバー技術の大きなポイントは、やはりその辺のところにあるというふうに認識しております。

3. ソニーが目指すもの

 このVRML3.0標準化を進めると同時にソニーでは、さらに先をいく幾つかの技術開発に取り組んでいます。
  まず、ソニーの開発方向がどんな方向を向いているかをちょっとお話ししておきたいと思います。ソニーの場合、基本的に仮想空間をつくる、バーチャルソサエティをつくるというのが大きな目的なわけですが、何かつまらない仮想空間をいっぱいつくっても意味は全然ありませんので、とにかくおもしろいものにしたい、つまりはエンターテインメント性の非常に高いものをつくっていきたいということを考えています。そのために、時にはゲーム的な要素というのも非常に重要になってくるのではないかと思っておりますし、クオリティの高さも必要です。ですから、スピード、それから品質というようなものの向上というのは重要な課題です。
  次にボイスチャット、いわゆるチャットという文字ベースのものから、実際に声を送ろうということで、音声の圧縮技術を使いました音声伝送みたいなことも加えようとしてきたのですが、昨年ちょうど開発を終えました。これは自分自身の声を送るのですが、単純に声を送るだけではおもしろくないといいますか、仮想的な世界でせっかく仮想的なアバターということで、自分の姿を変えて入っていくわけですから、声だけがリアルというのもまたつまらないわけで、いっそのこと声も変化したいということがありました。音声のコーデックを進める途中で、音声にいろいろの変化を与えまして、ピッチを変えたりとか、音色を変えたりというようなことができるようにしてあります。例えば、ロボットというのを選びますと、あたかも自分がロボットになったような声で相手に伝わっていきますし、トーンというのを変えますと、多少男性でありながら、女性のような高い声になってみたりというような変化ができるようになっています。
  さらにストリーミングオーディオというような、いわゆるオーディオ自身の伝送ですとか、ビデオの伝送というようなものも、どんどん融合していきたいというふうに思っています。多少、私個人の意見ではありますが、ソニーとしましてはインターネットといいますか、ネットワーク全体が1つの大きなメディアのように見えてくるのではないかなということを想定しておりまして、そういう意味で将来のメディア、今DVDとかいろいろございますけれど、その次のメディアとして大きな意味があるのではないかと思っています。
  それからもう1つの大きなポイントとしまして、やはりこれまで三次元の世界をつくるといいますと、どうしてもコストが高いという問題点がありました。しかも、そのコストの割には効果がどうも小さい。そのアンバランスさが、大きな障壁となって三次元世界の普及を阻害してきていたのではなかったかと思っています。そこでこのバランスを変えて、いかに仮想空間を簡単につくっていけるかというのが、ソニーにとってのもう1つの大きな課題と思っています。
  また、作られた世界をいかにセキュアーにといいますか、強固に維持していくかという辺りも、1 つの研究開発のテーマと考えております。
  次にまた標準化のお話に戻りますが、今後の標準化に向けての活動について触れてみたいと思います。ソニーの活動方向は先ほどお話ししましたように、さらに先に行きたいということで、ボイスチャットの機能を加えたりとか、あるいは3Dのアクソラレーターを起動して、非常に高速にナビゲートができるようにしてみたりいろいろなことをやっていますけど、それとともに標準化の活動というのもやっております。

4. Living Worlds

 ソニーは昨年の10月からLiving Worldsという提案をしておりますが、これはブラックサン社、パラグラフ社というUSのベンチャ会社と作成したものです。
  おもしろいことに、ブラックサンという会社のほとんどのエンジニアの人たちはドイツにおりまして、本社はアメリカのサンフランシスコにありますが、技術的にはドイツの会社だといえます。さらにパラグラフという会社の場合、開発メンバーはほとんどロシアにおりまして、これも本社はアメリカのサンノゼにあるんですが、ロシアの会社といえます。その2社がアメリカで我々ソニーと結びついて共同提案をしているという、非常に奇妙きてれつなチームなのです。どうしてこういったチームができたかといいますと、実は単純なことで、たまたまこの3社が、マルチユーザーの機能開発に取り組んでいたからということにほかなりません。それをみんなでばらばらにやるのではなくて、もっと統一化して進めることでその世界を広げていこうということになったわけです。
  では、統一化したら何が得なのかということですが、まずこのチームの前提として、ネットワークのアーキテクチャには依存しないで、この標準化をやろうということがあります。マルチユーザーについて考えると、当然ネットワークが関係してきますが、できるだけネットワークのアーキテクチャ自身に依存しないようにしたいのです。今、サーバクライアントモデルというのがネットワークアーキテクチャの基本となっていますが、将来伝送速度が非常に速くなったりしますと、本当にサーバクライアントモデルというのはそれでいいのか、もっと完全に分散化してもかまわないのではないかという意見もありまして、今後実際にそういうようなことになった時にも、全然影響を受ける必要のない状況でありたいと考えているわけです。
  それからプロトコル非依存ということで、プロトコルも極力決めないことにしています。というのは、まだマルチユーザーの中には開発しなければいけないものがたくさん残っているので、この段階でプロトコルを決めてしまいますと、これから新しいものをどんどん実装するたびにプロトコル自身をみんなでアップデートし続けなければならなくなってしまいます。それは発展のスピードを遅らすことにもなってしまいます。おのおのがどんどん開発を進められる状況にしておくことが重要であり、こういう基本姿勢をとっています。
  また機能についても、むやみに全部を標準化せず、必要最低限の仕様にしたいと考えています。こういった姿勢の基本には、機能拡張をしやすくしておいて、3社間あるいはもっと多くの方の間で大いに技術競争できるような自由な状態にしておきたいという考え方があるからなのです。リビングワールドの概念としては、サービスを供給するサーバの側から見て、自社が対応する領域をゾーンという名前で表わし、その中にあるノードの固まりやVRMLの形状を表わすブロックのすべてをシェアードオブジェクトという名前で表わしています。このシェアードオブジェクトをマルチユーザー間で共有することになるわけです。要はこの仕組みを実装しておけば、エンドユーザーは、それぞれの会社がサポートしているゾーン、つまり仮想空間を、一般的なサービスをだれがやっているかということを一切気にせずにシームレスに歩き回ることができますし、VRMLのコンテンツをつくる人のほうでも、シェアードオブジェクトという共通概念だけでつくっていけばいいことになります。複数のサービス会社さんのスタイルに縛られる必要がなくなり、今後は多分、アバターだけをつくるという新しいビジネスも出てくるのではないかと思っています。
  このシェアードオブジェクトに対して、何か動きを与えてあげる操縦桿のような役割を果たすパイロットという概念と、動かされる側でるドローンという概念があって、それがアバターに動きを与え、ネットワークを伝搬していって、別な人にも動きとして伝わっていくことになります。シェアードオブジェクトは、共有化する単位と、オブジェクト自身になるわけです。
  私たちがつくろうとしているマルチユーザー機能は、特定のブラウザによらないでアクセスできるメカニズムで、今、普通にVRML2.0のブラウザを使っている方々が、その延長線上で利用できるので、システムとか、アプリケーションソフトウェアといった新しい機能を提供している人たちともお互いに阻害し合うことなく開発を進めていけると思います。例えばソニーのソフトウェアは、だれもがサイトから自由にダウンロードして、プログラムを入手できますので、ソニーが動かしておりますサーバを通して、たまたま一緒につなげている方とコミュニケーションしたりすることができるようになるわけです。こうしてブラウザなどのメカニズムの違いを超えて、より多くの方が共通のバーャルソサエティを楽しむことができるようになれば良いと思います。将来的には、ある仮想社会における法律というようなものも必要になってくることも考えられます。仮想空間の中にはどんなものでも出現可能です。例えばゴジラみたいに大きなものが出てきて、小さい人を踏みつぶしては困るわけです。そういうのがおもしろいんだということもありますので、別に絶対そのルールを守らなくてもいいのですが、何らかのトラブルに備えてルールを守るような仕組みをつくっておくことも必要かもしれません。